「トーテムポール(Totem Pole)と階級社会

今日、始めてみる表現に出くわしました。

(私は、基本的に契約英語を中心に業務を行っていますので、慣用句などについて、あまり得意ではありません)

その英文は、次のようなものです。

 They passed the buck on to the lowest person on the totem pole.
   (訳:彼らは、もっとも立場の低い者に責任を押し付けた)
    (NHKビジネス英語2011年10月号75ページ9番)

「責任を押し付ける」は、「pass the buck on to」ですので、
   “the lowest person on the totem pole”
ってなんだ?ということになります。

これにつき、辞書を調べたところ、totem poleの意味として、いわゆるトーテムポール(アメリカインディアンのつくる像の一種)以外に、
   「階級組織/階級組織(=hierarchy)
という訳が掲載されていました。

そもそも、トーテム(totem)は、民族/氏族/家族の象徴であり、また崇拝の対象物でもあります。

恐らくそこから、totem自体が「階級」「序列」をあらわすようになったのではないかと推測されます

ランダムハウス英和大辞典には、「恐らくもとは、「私の氏族村落民」という後の派生語」という記載がありますので、トーテムまたはトーテムポール自体が、村あるいは村民の全体を象徴していて、それを見た英米人が、トーテムポールという村民全体の一番下に彫ってある顔が、もっとも身分の低い者だろうと推測して、このような言い方が定着したのではないかと思われます。

そこで、さらに確認すべく、子供向けの

   「Dictionary of Idioms」(by Marvin Terban, published by Scholastic Inc.)

を見てみました。

(この本は、英米の教育用の辞書で、日本人になじみのない非常に多くの変わった(でも欧米では良く使う)イディオムを700程取り上げて解説しているもので、もちろん英文ですが、英語自体は簡単なので、誰でも楽しく読めると思います)

その中に、ちゃんとありました。

用例として掲載されているのは、次の文章です。(P141)

 “I may be low man in the totem pole, but someday I plan to be Chief Executive Officer.”

そして解説の中の「Origin」(起源)の欄に、次のような説明がされています。

-----
「あるネイティブアメリカン(インディアンのこと)のグループでは、一つ(一人)の上に別のもの(別の人)を乗せて、シンボルとして、高い木のポールに刻みました。
このシンボルは「トーテム」と言われ、しばしばそれは人間の顔であったり姿であったりします。このトーテムが刻まれたポールはトーテムポールと呼ばれています。
通常、Lowestという言葉は、Leastという意味で、例えば「Lowest pay」とか「Lowest score」というような(否定的な)意味で用いられます。
でも、トーテムポールの一番下にある顔が最も重要性のないものだというわけではありません。
このイディオムを作り出した人は、恐らく、誤って、トーテムポールの一番下にある顔の人物を、最も価値のない、あるいは最下層の人だと誤解してしまったのだと思います。でもこのポピュラーな言い方を使う時、ほとんどの人は、その誤りには気付いていません
-----

なるほど。

確かに、土台になっている人が、必ずしも身分が低いとは限らない。
むしろ、村や社会の土台として支えている人だともいえるわけです。

これを考えていたら、昔、理科か歴史の授業で見た、「地球を支える亀」の図が、なぜか思い出されました。


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民法改正~個別論点7「継続的契約の解除」

民法(債権関係)の改正の論点について、7番目に、「継続的契約の解除」に関する問題を取り上げます。

継続的契約の解除、期間の定めのない継続的契約の解消等に関しては、法制審議会民法改正部会の「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」第60番目に論点として掲げられています。

なお、消費者と事業者間の取引については、話が複雑になりますので、除外して考えることにします。

企業間においては多くの取引が、売買基本契約、取引基本契約、販売代理店契約や、OEM契約(製造委託契約)等の名称に基づいて、継続的になされています。
そして、そのような継続的契約の終了や解除権の有無については、各企業において関与の度合いが高いのではないかと思います。

民法においては、継続的な契約だからと言って特段の手当ては、これまでなされてきませんでした。
しかしながら、判例において、民法第1条の「信義則」の具体的な適用事例として、継続的契約に関する解除権を制限するという方向で、規制がなされてきているのが実情です。

私が会社時代に経験した苦い思い出も、継続的契約の解除に関する問題でした。
もう20年以上も前の話しとはいえ勤めていた企業の内部の話ですからあまり公けにはできませんが、かい摘んでお話ししますと、
OEM契約の相手方が、ある程度の投資をしたうえでこちらの製品を作ってくれていました。
しかし、その投資から程なくして、こちら側から、期間満了を理由とした解除の申し出を行いました。その申し出が信義に反するということで問題となってしまったという内容でした。
結局、和解で解決したのですが、当時法務の担当者であった私は、随分と怒られたものです。(本当は、私は、契約を終了させることについて殆ど知らなかったのですが...)

さて、そういった苦い思い出のある「継続的契約の解消、解除」の問題ですが、具体的な論点としては、裁判例で出ているような解除が制限される場合というものを、法文上に明記することは可能かどうか、あるいは妥当かどうか、というものです。

継続的契約の解除に関する世界的な動向としては、かなり多くの国で代理店保護法があり、代理店契約(あるいは販売店契約)について、合理的な期間を置かずに、当然に契約が終了すると規定したり、解除できるとすることは、当該保護法に違反する可能性があります。

日本においてはこの手の保護法はありません。
しかし、上の通り、実質的には判例で制限が課せられている、という実情にあります。

これを明文化することについてですが、上記のような契約類型ごとに各当事者のおかれた状況が異なるため、慎重になるべきであることは当然です。

しかし、類型別のシチュエーションをきちんと踏まえた上で、具体化・明文化することは、事業者間契約といえどもメリットがあるのではないかと思われます。

一般に、
 「事業者間の契約は、それぞれ営利のための専門家として事業を行っているわけだから、
  どの事業者であっても持てる情報に優劣はない」
という前提が、検討者の中にある程度共有されているように思います。
特に大企業相手の仕事をしている弁護士さんに、上記が当然の前提であるかの如く立論されていることが多いように見受けられます。

しかし、事業者と言ってもトヨタやパナソニックのような大会社は、ほんの少数でしかありません。
上場企業間であっても、その情報収集能力や交渉能力には差異がありますし、それ以上に取引関係における優劣も厳然として存在しています。
ましてや、上場企業対中小企業という関係では、力の差は歴然です。

従って、できるだけ類型化して且つ具体的に記載することが可能であれば、判例によって蓄積されてきた継続的契約の解消・解除権の制限に関して明文化することは、事業者間においても相当のメリットがあるように思われます。

このような規定を設けることは、「契約書上にせっかく期間を定めて予見可能性を高めたことが無駄になる」という批判もあることでしょう。

しかし、
 1)最初に見たように外国では代理店保護法も存在していて、
   継続的契約の解除制限は特殊な規制とは言えないこと、
 2)契約書の予見可能性と言っても、判例で解除が規制される
   可能性を契約所で否定することはできない以上、
   むしろ明文化したほうが予見可能性に資すると思われること、
 3)さらに、なんといっても大企業対中小企業と言う力関係が違う
   当事者間の契約である以上、不合理な解除・解約を規制する
   メリットが大きいこと、
などから、実際に起草する場合には大きな困難も伴うかとは思いますが、継続的契約の解消・解除については、一定の規制を掛けることがよいのではないかと考えています。


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忍耐力と、Quote…Unquote ~NHK実践ビジネス英語

NHKの「実践ビジネス英語」を、かれこれ20年くらい聞いているように思います。
(色々と名称の変更はありましたが、ずっと杉田敏先生がご担当です。)

    番組ホームページはこちらへ

このビジネス英語の活用法については、皆さん、色々と工夫されている模様が2年くらい前に番組で紹介されていました。

私は、以前は単に番組を聞いたうえで、本文の全体の通し(5回分)だけを別のMDに編集したものをヒアリングのために使っているくらいでした。
しかし、最近は、斎藤兆史先生の英語達人塾その他多くの方々の英語習得本の影響を受け、各回の単熟語のまとめ、音読、および全文の書き写しをするようにしています。


さて、各回の最後に、"Quote…Unquote" なるコラムがあります。

「以下引用、引用終わり」みたいな意味です。

今日(3月15日)のQuote…Unquoteは、
Walter Elliottという牧師さんの次の言葉でした。

 Perseverance is not a long race;
 it is many short races one after another.

通常、忍耐力とは長い時間持ちこたえられる能力のように思われがちですが、
彼は、そうではなく、

  「短距離走を次から次へと乗り越えていく力」

なんだと言っているわけです。

つまり、

 単に、長期間じっと耐えているだけでは、だめなんだ。
 一つ一つの課題を全力を尽くして解決し、乗り越え、かつ、それをずっと継続させる力、
 それが必要なのだ。

ということなのでしょう。

ここには、我慢=非行為ではなく、「action」つまり行為の契機が見て取れます。

とかく日本人は、忍耐強い、と言われます。
でも、その忍耐強さが、「じっとして何もしない」、「文句を言わない」、というものに留まっていないかどうか、我々は、よく反省してみることが必要かもしれません。

昨今の政治や国の政策の在り方、具体的には、年金問題、財政問題、経済政策、原発・エネルギー政策、防衛政策、その他に関し、色々と問題があることは、皆、よくわかっていることです。

でも、
「色々と問題があるけれど、政府も、自治体も、公務員も、町会も、
 社長も、社員も、家族も、地域も、みんな頑張っているから、
 自分の不都合や不満は我慢しよう」
という“従来型の忍耐力”は、「節度」という意味である程度必要かもしれませんが、しかし、それだけで済むような“ハッピーな”時代ではなくなっているように感じます。

“忍耐力は、「action」を忍耐強く積み重ねることである”

ということを肝に銘じて、生きて行きたいと思います。


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オックスフォードのコンマ

この土日に、英語文の書き方として、ネイティブの間で昔から評判の高い「The Elements of Style」を読みました。

毎日英文の契約を書いたり翻訳していますが、確かにここで挙げられていることについて、悩むことが多いように思います。

その一例として、いわゆる「オックスフォードのカンマ」という点について、考えてみます。
これは、英文中に、いくつか例示を上げる場合、つまり、「A、B、CおよびD」と書く場合に、
1)“A, B, C and D”  or
2)“A, B, C, and D”
のどちらにするか、という問題です。

日本で英語を習った多くの方は、1)のように、andの前にはカンマを打たないと習ったのではないかと思います。私の妻もそのように主張しております。

また、英文契約でも、私が拝見したネイティブの作成した契約を総合すると、やはり、andの前にカンマを打っていない場合が多数を占めるように思います。

ところが、以前JAPAN TIMES WEEKLYの記事を読んでいて知ったのですが、オックスフォード大学では、2)を用いることにしている、というのです。
そして、その記事によると、オックスフォードでもこの「カンマ」を打つことをやめようとしているのではないかという憶測が広まった旨が書かれていました。

でも、オックスフォード及び賛同者によれば、今でも相変わらずカンマをつける旨を主張しているようです。

その主張の根拠として、次のような文が示されているようです。
 (See→Language Log

 「With the Oxford comma: We invited the strippers, JFK, and Stalin.」
と書けば、「ストリッパーと、ケネディと、スターリンを招待した」ことになり、
 「Without the Oxford comma: We invited the strippers, JFK and Stalin.」
と書くと、「ストリッパー、すなわち、ケネディとスターリンを招待した」という変な文章になる、と主張しているようです。

では、先日読んだ「The Elements of Style」ではどう説明されているかというと、当り前であるかのように、「andの前にもカンマが必要」と書かれています。
(但し、企業名などで、Little, Brown and Company というように最後のカンマが省略されている場合は、当該企業名の用法に従うべき、とされています。)

現代の英米人(特に米国人)の用法としては、カンマを打たないことが多いらしいですし、多くの現行の契約書においてカンマをつけていないので、このカンマの有無はあまり気にする必要はないようにも思います。

でも、それ以外にも、この「The Elements of Style」には、多くの文章作成上のヒントが掲載されています。
この本には、William Strunk Jr. のオリジナルバージョンのものもありますが、オリジナルにE. B. Whiteという人が加筆修正した本文85ページで文法語句説明が10ページ付いた第4版(2000年版)が新しくてよいのではないかと思います。
(Amazon.co.jpにて、621円)


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(社)日本経営協会(関西支部)主催 契約セミナー(2012年5月24日開催)について

今日は、5月24日に大阪市の日本経営協会関西支部において行われる予定のセミナーの内容についてお知らせします。

これまでのセミナーでの実施結果を踏まえ、多少なりともより良い内容のセミナーとすべく、現在、鋭意、レジメ内容の内容チェック及び修正、追加をおこなっております。

早めの申し込み(前回例の場合1か月以上前に申し込む場合)だと、「早割」の制度が使え、1名につき、経営協会会員正規料金の31,500円(非会員36,750円)から、2100円の割引を受けられるようですので、是非ご検討ください。また、同一企業から複数の方が申し込みと、さらに一名につき2100円割引になるようです。

現在、早期割引用の複数講座が掲載されたパンフレットを、当方のホームページに掲載しております。

http://www1.ttcn.ne.jp/solicitor/agreement4.html)または、
http://www.keiyaku-sakusei.net/seminar.html)または、
http://www.eibun-keiyaku.net/seminar.html

より詳細な講座ごとのご案内ができ次第、ホームページ上に掲載いたしますが、まずこの場をお借りして、予定されている内容をご紹介させていただきます。

なお、同様の講座を、平成24年10月18日(木)にも開催することとなっております。


―セミナー題名「契約の基礎知識と契約条項別問題点、
         モデル契約の分析講座」――

概  要:
「契約と契約書に関する実務知識を基礎から解説いたします。
 また、契約条項別に、契約書作成時におけるリスクマネジメントの
要点および条項修正の仕方を具体例を通して学んでいただきます。」

開催日時:平成24年5月24日(木)10時から17時
    (うち昼食1時間、実研修時間6時間)
開催場所:大阪科学技術センタービル内(日本経営協会のセミナー室)
 (申し込み先:日本経営協会関西支部企画研修グループ(福島さん)
        電話:06(6443)6962 Email ksosaka@noma.or.jp

目  次:

Ⅰ.契約と契約書についての基礎知識 
1.契約とは何か ~契約の成立、有効性~
  (1) 契約成立要件、契約書の機能
  (2) 契約の成立時期、内示、契約プロセス論
2.契約の類型
  (1) 民法上の契約類型
   1)役務型
     ★請負と委任の違い
     ★派遣と請負(偽装請負の問題)
     ★派遣と委任
   2)移転型
   3)利用型
   4)その他
  (2) 注意すべき契約類型
   1)非典型契約(無名契約)
   2)基本契約と個別契約
3.「契約自由の原則」とその制限
  (1) 民法の原則=私的自治の原則(締結自由、内容自由、方式自由)
    ★一般法と特別法について
  (2) 契約自由の原則の例外-1~強行法規違反等による無効
  (3) 契約自由の原則の例外-2~書面等方式が要求される契約
  (4) 契約自由の原則の例外-3~意思の不存在、錯誤、虚偽表示、
                 詐欺、代理
    ★販売店契約と代理店契約の違い
4.当事者の問題~相手方の契約締結の能力・権限について
  (1) 会社と契約する場合
    ★法人の目的の範囲外の行為
  (2) 個人と契約する場合
    ★制限行為能力者
5.印紙及び印鑑
  (1) 印紙(収入印紙、登記印紙、収入証紙)
  (2) 印鑑(代表者印、角印、認印、契印、訂正印、捨て印、割印等)

Ⅱ.契約締結および契約書作成時のリスク管理
1.契約書の基本事項とリスクの基本的考え方
  (1) 契約書の基本事項(5W1H)
  (2) 契約上のリスク対策~目的物、業務内容、業務手順への理解
   ・仕事の中身 ・目的物 ・マーケット特性 ・検査基準
   ・PL/知的財産権紛争の可能性 ・秘密保持レベルの程度
  (3) その他留意点
   ・盛り込むべき内容・表現・ひな型・予備的合意Letter of Intent
   ・ 契約修正/変更
2.条項別検討-1~法律上の任意規定との関連性を中心として
    ※ 英文契約が長い理由
  (1) 承諾時期
  (2) 所有権移転時期
  (3) 危険負担        
  (4) 期限の利益の喪失
  (5) 解除の要件、効果  
  (6) 損害賠償、遅延損害金 
  (7) 債権譲渡禁止特約
  (8) 瑕疵担保責任
  (9) 完全条項      
  (10) 不可抗力条項      
  (11) 裁判管轄      
  (12) 保証(連帯保証)、担保(抵当権など)  
  (13) 登記手続
  (14) 手付金
  (15) その他(履行場所、費用負担、支払等)
3.条項別検討-2~その他留意すべき条項
  (1) 単価及び支払い条件  
  (2) 単価及び対価の算定  
  (3) 検査 検収 
  (4) 立ち入り検査 
  (5) 製造物責任 
  (6) 発明・権利の帰属 
  (7) 秘密保持義務 
  (8) 輸出管理 
  (9) 知的財産権紛争

Ⅲ.システム開発契約(例)についての条項別検討

Ⅳ.契約類型別の記載条項(参考)
 1. 売買・移転型契約(取引基本契約、不動産等売買契約)
 2. 開発委託契約、ソフトウェア開発委託契約
 3. ライセンス・知的財産権契約(機密保持契約、ライセンス契約、
     共同開発契約)
 4. 販売店契約、代理店契約

Ⅴ.質疑応答


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民法改正~個別論点6「不可抗力免責条項」-2

不可抗力条項について~前回からの続きです。


前回は、不可抗力の中身が何かは、非常に不明確だ、ということを書きました。

そこでの例として、
 「従業員のストライキ」や「ロックアウト」は、不可抗力なのか?
 「部品等の納入業者の責めによりその部品の納入が遅滞したこと」によって、製造が遅れ、相手先への製品の納入が遅延した場合は、不可抗力なのか?
という2点を挙げさせていただきました。


この2点に関し、英米との契約書では、大抵、どちらか又は両方とも「不可抗力」事由の具体例として免責の対象となっています。

問題なのは、日本企業間の前述のような内容の契約であれば、この二つの事由が不可抗力なのかどうかということを、裁判で争わざるを得ないにも関わらず、その指針となるものが存在しない、ということです。

日本企業間の契約においても、国際間契約のように不可抗力をきちんと定義すれば済むとも言えます。

しかし、そもそもの問題は、民法で「不可抗力」という言葉を、何の定義もなく漠然と用いていることではないかと思います。
それこそ、現行民法が世界の標準となれない大きな理由だと審議会の内田貴先生がおっしゃっている「読めないテキスト」=法文には書いておらず、学者の解釈とか判例を詳しくしらべて初めてわかるような民法条文の一つの例だと思われます。

しかも、実際の取引において、何が不可抗力で免責されるのかということは、非常に重要なポイントになるのです。
東日本大震災のような自然災害の場合ですら、東電が不可抗力免責を受けられるかどうか、実は微妙なわけであり、関係法令の制定過程(国会答弁)などを考慮したりして、その限界を定めているような状況です。
ましてや、企業間の取引において漠然と「不可抗力」という用語が用いられているのは大きな問題であり、現象面では弱小企業側が泣き寝入りしているのが現状ではないかと推測されます。

いつも申し上げますが、契約の問題は「予測可能性」をいかに高められるか、ということが中心的な方向性であると思います。

そして、不可抗力については、それが金銭債務の場合であっても認められるべきかどうかを議論する前に、何が不可抗力なのかを定義することが先決だと思います。

もっとも、この点については、債務不履行の要件である「債務者の責めに帰すべき事由」をどのようなものと考えるか、という点と大きく関係しています。

判例はこれを「故意・過失」と同視しているわけではなく、債務不履行の認定にあたり、債権者側が積極的に故意・過失を立証する必要はないようです。また、現在までほとんど債務者に過失がないとして免責を認めた判例はないといわれています。

また、世界的には、そもそも債務を履行するのは当たり前のことであって、原則免責は認められない、とする考えが主流だと思われます。

例えば、ウィーン売買条約は、契約違反のみを損害賠償の要件としており(45条)、過失の有無は関係ありません。つまり過失がなくても原則として契約通りの給付を行わなかった債務者は賠償義務を負うわけですが、そのような厳格な責任を免責する要件として、不可抗力(79条)の定めが存在していると考えられます。

契約の予測可能性の担保という観点からみて、日本民法もこのような単純な構造にしたうえで、少なくとも何が不可抗力なのかということの定義を(できるだけ具体的に)設けることが、何よりも大事だと思われます。



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民法改正~個別論点6「不可抗力免責条項」-1

「不可抗力免責」については、法制審議会民法改正部会「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」第6番目(金銭債務の特則)の一つ目の論点として掲げられています。

現行民法においては、第419条において金銭債務の特則として3つの点が掲げられています。

その一つ目は、金銭債務の不履行の場合の損害賠償額は法定利率によるとするもの、
二つ目は、前述の損害賠償請求において債権者はその損害額の立証を要しないとするもの、
そして三つ目として、当該「損害賠償については、債務者は、不可抗力を持って抗弁とすることができない」という定めがおかれています。

これに対し審議会中間論点では、

「...民法第419条第3項の合理性に疑問を呈し,(金銭債務であっても)一定の免責の余地を認めるべきであるとする考え方に関し...債務不履行の一般則による免責を認める(との考えと)....金銭債務の特則を残した上で不可抗力免責のみを認めるという意見等がある....免責を認めることの可否及び免責を認める場合の具体的な要件の在り方について,更に検討してはどうか。」
とされています。

つまり、不可抗力免責を金銭債務にも拡大すべきかどうか、という方向から議論がされている模様です。

しかしながら、そもそも不可抗力に関する契約実務上の最大の問題点は、

    何が不可抗力であるかが非常に不明確である、

ということだと私は考えています。

こと国際的な契約においては、非金銭債務に関して不可抗力免責が認められる場合を、具体的に列挙して、可能な限り明確にしていこうとする姿勢が見られます。

しかしながら、日本企業間の契約では、不可抗力に対して一切言及がないか、仮に言及されていたとしても、「不可抗力の場合、債務者は責任を負わない」程度にしか記載されないのが普通です。

でも、例えば、「従業員のストライキ」や「ロックアウト」は、不可抗力なのでしょうか?

また、「部品等の納入業者の責めによりその部品の納入が遅滞したこと」によって、製造が遅れ、相手先への製品の納入が遅延した場合は、不可抗力なのでしょうか?

個人的な感想から「何となく」言わせてもらうと、従業員のマネジメントがうまくいかなかった結果として発生した労働争議が不可抗力というのも変な感じがします。
同様に、自ら起用した下請け部品メーカーの責めによる納入遅延が不可抗力と言っていいのか、はなはだ疑問に思います。

でも、現状では、契約でしっかり具体的に取り決めていない限り、これらが不可抗力なのかどうかを判断する基準がほとんどありません。

これが非常に問題だと思われます。

(長くなりましたので、次回へ持ち越します)
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