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労働者派遣基本契約の印紙貼付の要否

昨日、契約セミナーを、日本経営協会さんの主催により大阪で開催させていただきました。
多数ご参加いただきありがとうございました。

当日、出席された方から、「労働者派遣基本契約」が、4千円の収入印紙を貼付する必要のある「基本契約」に該当するか否か、についてのご質問をいただきました。

残念なことに、印紙税法の細かい政令部分について、小生の理解が不足していて、即答できませんでした。

また、ご質問された方の御名前やメールアドレス等も分からないため、この場をお借りして、ご質問への回答をさせていただきたいと存じます。


結論から申し上げますと、労働者派遣基本契約には、印紙を貼付する必要はありません。


国税庁のホームページには、印紙税法別表に関する政令部分につき、以下のような解説がされています。(国税庁ホームページより抜粋)

「 印紙税額一覧表の第7号文書の「継続的取引の基本となる契約書」とは、特定の相手方との間において継続的に生じる取引の基本となる契約書のうち次の文書をいい(ます)。
(1) 売買取引基本契約書や貨物運送基本契約書、下請基本契約書などのように、営業者間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する複数取引を継続的に行うため、その取引に共通する基本的な取引条件のうち、目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうち1以上の事項を定める契約書
(2) 代理店契約書などのように、両当事者(営業者に限りません。)間において、売買に関する業務、金融機関の業務、保険募集の業務又は株式の発行若しくは名義書換の事務を継続して委託するため、その委託する業務又は事務の範囲又は対価の支払方法を定める契約書
(3) その他、金融、証券・商品取引、保険に関する基本契約のうち、一定のもの (例) 銀行取引約定書、信用取引口座約定約諾書、保険特約書など」



※従って、労働者派遣基本契約は(委任契約としての性質を持つため)、印紙貼付対象の基本契約とはなりません。



なお、該当部分の政令全文は、次の通りです。

(政令の規定全文-印紙税法施行令26条)

第二十六条  法別表第一第七号の定義の欄に規定する政令で定める契約書は、次に掲げる契約書とする。
一  特約店契約書その他名称のいかんを問わず、営業者(法別表第一第十七号の非課税物件の欄に規定する営業を行う者をいう。)の間において、売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負に関する二以上の取引を継続して行うため作成される契約書で、当該二以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格を定めるもの(電気又はガスの供給に関するものを除く。)
二  代理店契約書、業務委託契約書その他名称のいかんを問わず、売買に関する業務、金融機関の業務、保険募集の業務又は株式の発行若しくは名義書換えの事務を継続して委託するため作成される契約書で、委託される業務又は事務の範囲又は対価の支払方法を定めるもの
三  銀行取引約定書その他名称のいかんを問わず、金融機関から信用の供与を受ける者と当該金融機関との間において、貸付け(手形割引及び当座貸越しを含む。)、支払承諾、外国為替その他の取引によつて生ずる当該金融機関に対する一切の債務の履行について包括的に履行方法その他の基本的事項を定める契約書
四  信用取引口座設定約諾書その他名称のいかんを問わず、金融商品取引法第二条第九項 (定義)に規定する金融商品取引業者又は商品先物取引法 (昭和二十五年法律第二百三十九号)第二条第二十三項 (定義)に規定する商品先物取引業者とこれらの顧客との間において、有価証券又は商品の売買に関する二以上の取引(有価証券の売買にあつては信用取引又は発行日決済取引に限り、商品の売買にあつては商品市場における取引(商品清算取引を除く。)に限る。)を継続して委託するため作成される契約書で、当該二以上の取引に共通して適用される取引条件のうち受渡しその他の決済方法、対価の支払方法又は債務不履行の場合の損害賠償の方法を定めるもの
五  保険特約書その他名称のいかんを問わず、損害保険会社と保険契約者との間において、二以上の保険契約を継続して行うため作成される契約書で、これらの保険契約に共通して適用される保険要件のうち保険の目的の種類、保険金額又は保険料率を定めるもの

日本経済新聞社8月13日法務面記事(約款)

先週、北海道に里帰りをしてきました。

登別の温泉宿に宿泊しているとき、友人からのメールで、
日本経済新聞8月13日朝刊の法務面に、
ファーストサーバ事件に関連した「約款」問題に関する記事が
掲載されていることを知りました。

この件については、以前、同紙の記者から取材を受けておりました。

ありがたいことに、小生のような者の名前まで出していただき、
感謝しております。

内容の詳細につきましては、同紙をご覧ください。

約款問題は、民法改正の検討項目に挙がっていることもあり、また、
改正を担当されている内田先生が昔から多数の議論をされている部分
でもあり、NBL等の法律雑誌でも多く取り上げられているものです。

従来は、少し抽象的な問題という感じではありましたが、
今年6月のファーストサーバにおけるユーザーデータ消去事件を契機
に、約款規制がより具体的で切迫した問題になったように思います。

中国契約法などにおける「公正な約款」でなければ無効とする法律が
どこまで妥当なのか、企業対企業において、消費者契約法のような
保護がどこまで必要なのか、議論し解決していくべき論点は多いように
思います。

ただ、多くの企業がネットで営業を行っており、損害賠償義務につき
対価上限とすることは、企業存続のために合理的であり必要なもので
あると、私は思っております。

民法改正~個別論点6「不可抗力免責条項」-2

不可抗力条項について~前回からの続きです。


前回は、不可抗力の中身が何かは、非常に不明確だ、ということを書きました。

そこでの例として、
 「従業員のストライキ」や「ロックアウト」は、不可抗力なのか?
 「部品等の納入業者の責めによりその部品の納入が遅滞したこと」によって、製造が遅れ、相手先への製品の納入が遅延した場合は、不可抗力なのか?
という2点を挙げさせていただきました。


この2点に関し、英米との契約書では、大抵、どちらか又は両方とも「不可抗力」事由の具体例として免責の対象となっています。

問題なのは、日本企業間の前述のような内容の契約であれば、この二つの事由が不可抗力なのかどうかということを、裁判で争わざるを得ないにも関わらず、その指針となるものが存在しない、ということです。

日本企業間の契約においても、国際間契約のように不可抗力をきちんと定義すれば済むとも言えます。

しかし、そもそもの問題は、民法で「不可抗力」という言葉を、何の定義もなく漠然と用いていることではないかと思います。
それこそ、現行民法が世界の標準となれない大きな理由だと審議会の内田貴先生がおっしゃっている「読めないテキスト」=法文には書いておらず、学者の解釈とか判例を詳しくしらべて初めてわかるような民法条文の一つの例だと思われます。

しかも、実際の取引において、何が不可抗力で免責されるのかということは、非常に重要なポイントになるのです。
東日本大震災のような自然災害の場合ですら、東電が不可抗力免責を受けられるかどうか、実は微妙なわけであり、関係法令の制定過程(国会答弁)などを考慮したりして、その限界を定めているような状況です。
ましてや、企業間の取引において漠然と「不可抗力」という用語が用いられているのは大きな問題であり、現象面では弱小企業側が泣き寝入りしているのが現状ではないかと推測されます。

いつも申し上げますが、契約の問題は「予測可能性」をいかに高められるか、ということが中心的な方向性であると思います。

そして、不可抗力については、それが金銭債務の場合であっても認められるべきかどうかを議論する前に、何が不可抗力なのかを定義することが先決だと思います。

もっとも、この点については、債務不履行の要件である「債務者の責めに帰すべき事由」をどのようなものと考えるか、という点と大きく関係しています。

判例はこれを「故意・過失」と同視しているわけではなく、債務不履行の認定にあたり、債権者側が積極的に故意・過失を立証する必要はないようです。また、現在までほとんど債務者に過失がないとして免責を認めた判例はないといわれています。

また、世界的には、そもそも債務を履行するのは当たり前のことであって、原則免責は認められない、とする考えが主流だと思われます。

例えば、ウィーン売買条約は、契約違反のみを損害賠償の要件としており(45条)、過失の有無は関係ありません。つまり過失がなくても原則として契約通りの給付を行わなかった債務者は賠償義務を負うわけですが、そのような厳格な責任を免責する要件として、不可抗力(79条)の定めが存在していると考えられます。

契約の予測可能性の担保という観点からみて、日本民法もこのような単純な構造にしたうえで、少なくとも何が不可抗力なのかということの定義を(できるだけ具体的に)設けることが、何よりも大事だと思われます。



民法改正~個別論点6「不可抗力免責条項」-1

「不可抗力免責」については、法制審議会民法改正部会「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」第6番目(金銭債務の特則)の一つ目の論点として掲げられています。

現行民法においては、第419条において金銭債務の特則として3つの点が掲げられています。

その一つ目は、金銭債務の不履行の場合の損害賠償額は法定利率によるとするもの、
二つ目は、前述の損害賠償請求において債権者はその損害額の立証を要しないとするもの、
そして三つ目として、当該「損害賠償については、債務者は、不可抗力を持って抗弁とすることができない」という定めがおかれています。

これに対し審議会中間論点では、

「...民法第419条第3項の合理性に疑問を呈し,(金銭債務であっても)一定の免責の余地を認めるべきであるとする考え方に関し...債務不履行の一般則による免責を認める(との考えと)....金銭債務の特則を残した上で不可抗力免責のみを認めるという意見等がある....免責を認めることの可否及び免責を認める場合の具体的な要件の在り方について,更に検討してはどうか。」
とされています。

つまり、不可抗力免責を金銭債務にも拡大すべきかどうか、という方向から議論がされている模様です。

しかしながら、そもそも不可抗力に関する契約実務上の最大の問題点は、

    何が不可抗力であるかが非常に不明確である、

ということだと私は考えています。

こと国際的な契約においては、非金銭債務に関して不可抗力免責が認められる場合を、具体的に列挙して、可能な限り明確にしていこうとする姿勢が見られます。

しかしながら、日本企業間の契約では、不可抗力に対して一切言及がないか、仮に言及されていたとしても、「不可抗力の場合、債務者は責任を負わない」程度にしか記載されないのが普通です。

でも、例えば、「従業員のストライキ」や「ロックアウト」は、不可抗力なのでしょうか?

また、「部品等の納入業者の責めによりその部品の納入が遅滞したこと」によって、製造が遅れ、相手先への製品の納入が遅延した場合は、不可抗力なのでしょうか?

個人的な感想から「何となく」言わせてもらうと、従業員のマネジメントがうまくいかなかった結果として発生した労働争議が不可抗力というのも変な感じがします。
同様に、自ら起用した下請け部品メーカーの責めによる納入遅延が不可抗力と言っていいのか、はなはだ疑問に思います。

でも、現状では、契約でしっかり具体的に取り決めていない限り、これらが不可抗力なのかどうかを判断する基準がほとんどありません。

これが非常に問題だと思われます。

(長くなりましたので、次回へ持ち越します)

民法改正~個別論点5「契約交渉段階の不当破棄」-2

~昨日からの続きです~

「契約交渉段階の不当破棄」の点は、法制審議会民法改正部会「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」第23番目(契約交渉段階)の一つ目の論点として掲げられています。

昨日は、企業間で交渉が長期化・複雑化していること、および中間論点での問題のされ方について、概略してまいりました。
今日は少し具体的に要件を考えてみようと思います。

判例で現れた契約交渉段階での不当破棄の事例は、具体的には次のようなものです(ほんの一例であり、非常に多数の判決があります)。

1)間違いなく開発の委託をするかのようなうまい話を持ちかけておき、先方に試作品を作らせたりした経緯があるにもかかわらず、最終的には開発委託を行わなかった場合に、当該最終委託が、委託主の海外親会社が最終決定する権限を有していたことを受託側が知っていたにも関わらず、委託側企業に信義則違反があるとした例、

2)マンションを買おうとしていた歯科医師が、色々と売主に注文をつけたり、電源の増設をにおわし、売主が電源増設を実施し、歯科医に報告したのに、歯科医が反論を述べなかった等の事情の場合、歯科医側に信義則違反がある、とした例、
などです。

このような多数の判例による判示がある中で、どうやって、妥当な要件を抽出していくかがポイントでしょう。

では、この点をどう考えていけばよいのでしょうか?

情報格差のある対消費者契約や対労働者契約の場合には、情報弱者側からの突然の契約破棄は、必ずしも不当破棄とは言えないでしょうし、話が複雑になりますので、少なくともここでは除外して考えるべきだと思います。

企業間に絞った話であれば、先日の私のブログでも書いたように「どちらが情報弱者かがわからない」ことが多いと思われます。単に買主だから強い、というわけでもないと思います。

そのような中で、どのような要件のもとに、不当破棄の法理を条文化していくのか、かなり難問でしょう。

ただ、契約の不当破棄の問題は、所詮、契約上の義務の問題ではありません。

この問題は、不法行為責任の問題なわけです。
契約に付随する問題ではあるものの、契約の効果として直接出てくる問題ではありません。

従って、その要件や効果について、現在でも不法行為という漠然としたものに依拠しているわけであり、少なくとも「契約の予測可能性」の阻害の点では、とりたてて問題はない部分の論点だと言えるでしょう。

成立した契約の効力等の問題に影響を与えないのですから、従来の不法行為の枠組みの中で要件が不明確であった点を極力明確化すれば、それだけ取引やビジネスに資するのではいかと(少し乱暴ですが)思われるのです。

意見の中には「濫用」を心配する声もあるようですが、現在でも主張の論拠は「不法行為」なのですから、濫用の危険は既に存在しているわけです。
それを少しでも明確にしていこうとする取り組みは、正しい方向のように思われます。

(この点、先に述べた「事情変更の原則」とは、見解を異にしています。事情変更の原則は、一旦成立した契約の効力を変化させるところに意義があるわけであり、契約の予測可能性を低め、かつ濫用の危険が非常に大きいと思われるからです。)