契約英語の勉強方法-9

さて、これまでは、英文契約の「英語」力をどうやって付けるか、という点から、条項集を書きうつしたり、適当な法務辞書を用意したりすることを書いてきました。

今日書こうとしているのは、英文契約に限ったことではなく、日本語の契約も含めて、どうやったら良い契約ができるか、という点についてです。
この点については、是非とも読んでいただきたい本があります。
それは、原秋彦さんの「リスクマネージメントの道具としてのビジネス契約書の起案・検討のしかた」(商事法務)2,310円です。



原秋彦さんは、前に紹介した「ビジネス法務基本用語和英辞典」を書いておられる弁護士さんです。
この本が非常にユニークで他書にない特色を持っているのは、リスクの捉え方にあると思います。

ざっくり言いますと、リスクマネージメントに関する作業は、細かく「リスクのシミュレーション」「リスクのアセスメント」「リスクの狭義のマネジメント」の3段階に分けられるが、第1段階のリスクシミュレーションがしっかり為されていない限り良い契約書にはならない、ということです。
そして、そのリスクの所在を察知しうるのは、「公正さや公平といったバランス感覚に基づく法的センス」なのではなく、「ビジネス・センス」なのだと主張されています(P57、58から要約して抜粋)。

私も契約のセミナーを開かせていただくことがありますが、そこで使うレジメや説明の内容においても、原先生のこの考え方を随所に取り入れております。
契約を作成したり審査する際には、実際の仕事や目的物がどのようなものであって、どのような流れの中で、具体的にどのように処理されているのかを、具体的に細かく想像し、どこかに落とし穴はないかということを追及してみて、初めてリスクがあぶり出されてくるのだと思います。
例えば、「本目的物を発注後30日以内に納入するものとする」というような契約条項がある場合、もちろん、所有権や危険負担の移転時期をどうするかという点も重要ではありますが、それを規定しさえすれば良いのではなく、「もし期限より前に納入してきたらそれを保管する場所はあるのだろうか?」ということを想像し検討することによって初めて、期限前納入がリスクなのかリスクではないのかが分かるのだと思います。
卑近な例ですが、例えば時計のような小型の商品であれば、保管場所に関しては、期限前納入のリスクは少ないでしょうが、押し入れ用の整理引き出しのように場所を取る製品の場合は、期限前納入のリスクは高まると言えるでしょう。

このような観点で契約条項を見ていかなければならないことを、原先生の本は教えてくれます。
網羅性には欠けますが、それは本書の性質上当たり前とも言えます。上記の通りリスクをイメージしていけば、目的物や業務の種類、当事者の置かれた立場その他に応じて、無限のバリエーションがあるでしょうから、網羅することは元々不可能だと思います。
それよりも、契約を作成する際の基礎的な考え方として、本書の考え方は非常に参考になります。
本書は英文契約に特化したものではなく、英文も全く出てきませんが、著者は英文契約に多数関わっておられる方であり、英文契約を作成する際にも全く同様に有益な示唆を与えてくれる本だと思います。


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