NDA1~英文秘密保持契約条項の修正ポイント1
これまで早稲田大学のオープンカレッジや商工会議所などが主催するセミナーや、企業毎の講習会などで、英文契約を含む契約の説明をさせていただいてきました。
ただ、やはり時間の制約もあることから、条項内で用いられている単語の詳しい説明や条項修正の仕方などには、あまり触れることができませんでした。
そこで、本ブログでは、今後少しずつではありますが、契約類型ごとの条項の説明と修正ポイント、修正実例などをご紹介していこうと考えています。
まず、その第1回目は、秘密保持契約-1です。
(秘密保持契約(NDA)第1回へ移動する)
(販売店契約(販売店側からの検討)第1回へ移動する)
(販売店契約(供給者側からの検討)第1回へ移動する)
(OEM契約(供給者側からの検討)第1回へ移動する)
※ なお、この英文契約例の修正前の英文契約全文とその和訳は、弊所のウェブサイトに掲載されています。
以下のサイトにアクセスしてください。
→ 英文契約例
【ご注意ください】 上記英文契約令及びその和訳は、「契約修正を行う前の素案」ですので、不適切な部分、英語や形式上の誤りなどがあり、このまま用いることはできません。くれぐれもご注意ください。
NON-DISCLOSURE AGREEMENT
秘密保持契約(NDA)
ここでは、英文の秘密保持契約の修正例と考え方について、考えてみます。
★ 以下、英文ごとに、まず契約原案とその和訳を掲載したあと、その部分についての(筆者の)修正の考え方をご説明し、最後に実際の修正内容を掲げます。修正条文案の「赤字」の部分が、修正・削除部分です。
●● NDA-1 冒頭部分 ●●
まず、契約の冒頭部分です。
<検討条文例>
This Non-Disclosure Agreement is made and entered into by and between AAA Corporation, an Illinois corporation with a principal place of business at … Illinois, USA, for and on behalf of itself and its subsidiaries and affiliates (hereinafter referred to as “AAA”) and BBB Corporation, a Japanese corporation with a principal place of business at …Tokyo, Japan (hereinafter referred to as “BBB”), individually referred to as a “Party” and collectively referred to as the “Parties”.
<和訳例>
この秘密保持契約は、イリノイ州の株式会社であって米国イリノイ州...に本社を有し、それ自身並びにその子会社及び関連会社を代表するAAAコーポレーション(以下「AAA」という。)及び日本の株式会社であって日本国東京...に本社を有するBBBコーポレーション(以下「BBB」という。)との間で締結される。なお、個々の当事者を「(各)当事者」といい、双方を併せて「(両)当事者」という。
<条文の考え方>
●契約冒頭(頭書)部分では、通常、本契約の当事者を特定します。これは、通常、法人の設立された地域(どこの会社か)と、その本社住所(又は登記住所)を記載することにより特定がなされます。日本の契約では契約末尾に住所や代表者がまとめて記載されることがほとんどですが、英文契約では、通常、末尾は会社名と署名(署名者の所属や役職、日付等を含む)だけを記載し、住所は冒頭に記載されることになります。
★ 英文1行目に“is made and entered into”という表現がありますが、このmakeとenter intoという動詞(句)は、いずれも「締結する」という意味です。
英米法では、歴史的にいくつかの用語体系があり、それを統合して契約の英文が構成されているため、様々な場所で、同じ意味を持つ複数の用語が併記される場合があります。この二つは同じ意味ですので、訳す場合は上記のように「締結される」とすれば十分です。
★ 英文2行目の “for and on behalf of itself and its subsidiaries and affiliates”という表現は、「自らとその子会社や関連会社に関しまたそれらの利益のために」といった意味で、ここでは、この秘密保持契約に基づいてAAA Corporationの子会社や関連会社も、情報を開示したり情報を受け取ったりする場合が想定されています。
修正は行いませんでしたが、契約当事者が若干あいまいになるため、あまり好ましい表現ではないと思います。特に、契約本文の中で、ある義務は「AAA」という子会社を含めたグループ全体の義務とし、別の義務は「a subsidiary appointed by the AAA Corporation」などと記載して特定の子会社の義務となっているような場合、よく注意して契約を読む必要があります。例えば、ある重大な義務について子会社が履行しなかった場合、親会社には一切責任がなく、BBB社と子会社間で決着を付ける旨が定められている場合もあります。
従って、ここの当事者欄では、せめて子会社や関連会社を特定した方が望ましいといえます。
★ 2行目と3行目のカッコ内の定義の部分では、 “hereinafter referred to as ~ ” というフレーズが使われており、ここは「以下~という。」と訳されます。このほか定義をする場合には “hereinafter called the “Effective Date”とする場合もあり、また単に「(“Effective Date”)」と定義された語句だけを書く場合もあります。
ここでは、 “hereinafter”という耳慣れない用語が使われていますが、これは、here + in + after と分解され、hereは本契約(場合によっては本条)を意味します。つまり、「after + in + this Agreement=本契約の以下の部分においては」という意味です。 ほかにもhere+前置詞として、“herein,” “hereof,” “hereunder,” “herewith,” “hereafter”などが用いられ、「本契約に」「本契約の」「本契約に基づき」「本契約に」「本契約(締結)後」などを意味します。
<条文修正の考え方>
●英文原案では、いきなり「the Agreement」と大文字で記載されています。
英文契約において大文字で書き始める用語は、「固有名詞」でなければ、すべて「定義用語」とすべきですが、この契約には、「Agreement」の定義はされていませんので、不適切です。
そこで、「本契約」の定義となるよう修正・追記しました。ちなみに、契約の定義条項を日本語訳する場合、日本語では「大文字・小文字」の区別ができないため、「本契約」とか「本件業務」といった形にするのが普通です。
ただ「Supplier」(供給者)、「Distributor」(販売店)や「Licensee」(ライセンシー、使用許諾を受けた者)が当事者の場合に、「本供給者」、「本販売店」、「本ライセンシー」と定義するのは長くなるので、単に「供給者」、「販売店」、「ライセンシー」などと訳す場合も多くみられます。
このケースにおいて、例えば、契約文中に他の第三者たる「supplier」という用語が用いられている場合には注意が必要です。英文では大文字と小文字の区別がありますので誰を指しているか判断できますが、日本語で「供給者」と訳してしまうと、契約当事者たる供給者なのか、第三者たる供給者なのか、区別がつかなくなります。それを回避するために、後者の第三者たる供給者は「サプライヤー」と訳すなど、区別を明確にしておくことが必要です。
●最初に述べた通り、この冒頭部分では契約を特定するために必要な事項を記載します。この例では、契約日付がありませんので、ここに契約日付を挿入するべきです。ただ、日付が本契約のどこかに記載してあれば、契約の特定としては十分とも言えますが、冒頭で「契約日」の定義をしておいた方が、後々便利なので、ここに「as of Month Date, 20** (hereinafter referred to as the “Effective Date”)」を挿入し、「Effective Date(契約締結日、契約発効日)」という定義を設定しています。
●なお、日付の書き方は、米国方式と英国方式があります。
米国方式:January 31, 2050 (読み方~January thirty-one, 2050)
英国方式:31st January, 2050(読み方~the thirty-first of January, 2050)
<条文修正案>(赤字が修正・追加部分)
ThisAgreement agreement (hereinafter referred to as the “Agreement”) is made and entered into as of Month Date, 20** (hereinafter referred to as the “Effective Date”) by and between AAA Corporation, for and on behalf of itself and its subsidiaries and affiliates (hereinafter referred to as “AAA”) and BBB Corporation (hereinafter referred to as “BBB”), individually referred to as a “Party” and collectively referred to as the “Parties”.
<修正例の和訳>
本契約この契約(以下「本契約」という。)は、20**年*月*日(以下「契約締結日」という。)において、それ自身並びにその子会社及び関連会社を代表するAAAコーポレーション(以下「AAA」という。)及びBBBコーポレーション(以下「BBB」という。)との間で締結される。なお、個々の当事者を「(各)当事者」といい、双方を併せて「(両)当事者」という。
次回以降、この後の条文の解説を加えていきたいと思います。
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ただ、やはり時間の制約もあることから、条項内で用いられている単語の詳しい説明や条項修正の仕方などには、あまり触れることができませんでした。
そこで、本ブログでは、今後少しずつではありますが、契約類型ごとの条項の説明と修正ポイント、修正実例などをご紹介していこうと考えています。
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【ご注意ください】 上記英文契約令及びその和訳は、「契約修正を行う前の素案」ですので、不適切な部分、英語や形式上の誤りなどがあり、このまま用いることはできません。くれぐれもご注意ください。
秘密保持契約(NDA)
ここでは、英文の秘密保持契約の修正例と考え方について、考えてみます。
★ 以下、英文ごとに、まず契約原案とその和訳を掲載したあと、その部分についての(筆者の)修正の考え方をご説明し、最後に実際の修正内容を掲げます。修正条文案の「赤字」の部分が、修正・削除部分です。
●● NDA-1 冒頭部分 ●●
まず、契約の冒頭部分です。
<検討条文例>
This Non-Disclosure Agreement is made and entered into by and between AAA Corporation, an Illinois corporation with a principal place of business at … Illinois, USA, for and on behalf of itself and its subsidiaries and affiliates (hereinafter referred to as “AAA”) and BBB Corporation, a Japanese corporation with a principal place of business at …Tokyo, Japan (hereinafter referred to as “BBB”), individually referred to as a “Party” and collectively referred to as the “Parties”.
<和訳例>
この秘密保持契約は、イリノイ州の株式会社であって米国イリノイ州...に本社を有し、それ自身並びにその子会社及び関連会社を代表するAAAコーポレーション(以下「AAA」という。)及び日本の株式会社であって日本国東京...に本社を有するBBBコーポレーション(以下「BBB」という。)との間で締結される。なお、個々の当事者を「(各)当事者」といい、双方を併せて「(両)当事者」という。
<条文の考え方>
●契約冒頭(頭書)部分では、通常、本契約の当事者を特定します。これは、通常、法人の設立された地域(どこの会社か)と、その本社住所(又は登記住所)を記載することにより特定がなされます。日本の契約では契約末尾に住所や代表者がまとめて記載されることがほとんどですが、英文契約では、通常、末尾は会社名と署名(署名者の所属や役職、日付等を含む)だけを記載し、住所は冒頭に記載されることになります。
★ 英文1行目に“is made and entered into”という表現がありますが、このmakeとenter intoという動詞(句)は、いずれも「締結する」という意味です。
英米法では、歴史的にいくつかの用語体系があり、それを統合して契約の英文が構成されているため、様々な場所で、同じ意味を持つ複数の用語が併記される場合があります。この二つは同じ意味ですので、訳す場合は上記のように「締結される」とすれば十分です。
★ 英文2行目の “for and on behalf of itself and its subsidiaries and affiliates”という表現は、「自らとその子会社や関連会社に関しまたそれらの利益のために」といった意味で、ここでは、この秘密保持契約に基づいてAAA Corporationの子会社や関連会社も、情報を開示したり情報を受け取ったりする場合が想定されています。
修正は行いませんでしたが、契約当事者が若干あいまいになるため、あまり好ましい表現ではないと思います。特に、契約本文の中で、ある義務は「AAA」という子会社を含めたグループ全体の義務とし、別の義務は「a subsidiary appointed by the AAA Corporation」などと記載して特定の子会社の義務となっているような場合、よく注意して契約を読む必要があります。例えば、ある重大な義務について子会社が履行しなかった場合、親会社には一切責任がなく、BBB社と子会社間で決着を付ける旨が定められている場合もあります。
従って、ここの当事者欄では、せめて子会社や関連会社を特定した方が望ましいといえます。
★ 2行目と3行目のカッコ内の定義の部分では、 “hereinafter referred to as ~ ” というフレーズが使われており、ここは「以下~という。」と訳されます。このほか定義をする場合には “hereinafter called the “Effective Date”とする場合もあり、また単に「(“Effective Date”)」と定義された語句だけを書く場合もあります。
ここでは、 “hereinafter”という耳慣れない用語が使われていますが、これは、here + in + after と分解され、hereは本契約(場合によっては本条)を意味します。つまり、「after + in + this Agreement=本契約の以下の部分においては」という意味です。 ほかにもhere+前置詞として、“herein,” “hereof,” “hereunder,” “herewith,” “hereafter”などが用いられ、「本契約に」「本契約の」「本契約に基づき」「本契約に」「本契約(締結)後」などを意味します。
<条文修正の考え方>
●英文原案では、いきなり「the Agreement」と大文字で記載されています。
英文契約において大文字で書き始める用語は、「固有名詞」でなければ、すべて「定義用語」とすべきですが、この契約には、「Agreement」の定義はされていませんので、不適切です。
そこで、「本契約」の定義となるよう修正・追記しました。ちなみに、契約の定義条項を日本語訳する場合、日本語では「大文字・小文字」の区別ができないため、「本契約」とか「本件業務」といった形にするのが普通です。
ただ「Supplier」(供給者)、「Distributor」(販売店)や「Licensee」(ライセンシー、使用許諾を受けた者)が当事者の場合に、「本供給者」、「本販売店」、「本ライセンシー」と定義するのは長くなるので、単に「供給者」、「販売店」、「ライセンシー」などと訳す場合も多くみられます。
このケースにおいて、例えば、契約文中に他の第三者たる「supplier」という用語が用いられている場合には注意が必要です。英文では大文字と小文字の区別がありますので誰を指しているか判断できますが、日本語で「供給者」と訳してしまうと、契約当事者たる供給者なのか、第三者たる供給者なのか、区別がつかなくなります。それを回避するために、後者の第三者たる供給者は「サプライヤー」と訳すなど、区別を明確にしておくことが必要です。
●最初に述べた通り、この冒頭部分では契約を特定するために必要な事項を記載します。この例では、契約日付がありませんので、ここに契約日付を挿入するべきです。ただ、日付が本契約のどこかに記載してあれば、契約の特定としては十分とも言えますが、冒頭で「契約日」の定義をしておいた方が、後々便利なので、ここに「as of Month Date, 20** (hereinafter referred to as the “Effective Date”)」を挿入し、「Effective Date(契約締結日、契約発効日)」という定義を設定しています。
●なお、日付の書き方は、米国方式と英国方式があります。
米国方式:January 31, 2050 (読み方~January thirty-one, 2050)
英国方式:31st January, 2050(読み方~the thirty-first of January, 2050)
<条文修正案>(赤字が修正・追加部分)
This
<修正例の和訳>
次回以降、この後の条文の解説を加えていきたいと思います。
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※ なお、この英文契約例の修正前の英文契約全文とその和訳は、弊所のウェブサイトに掲載されています。
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