民法改正~個別論点4「条項使用者不利の原則」

少し間が空いてしまいましたが、民法(債権関係)の改正の論点について、4番目に、「条項使用者不利の原則」を取り上げます。

条項使用者不利の原則の採用(明文化)の是非は、法制審議会民法改正部会の「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」第59番目(契約解釈)の3つめの論点として掲げられています。

ここでいう「条項使用者」とは、「あらかじめ当該条項を準備した側の当事者」を意味しています。

そして「条項使用者不利の原則」は、ある契約条項の解釈が争われた場合において、あらかじめ当該条項を準備した側の当事者の不利に、当該条項を解釈する、という原則です。

このような考え方は、英米法でも採用されており(いわゆるcontra proferentemの原則)、契約作成者が弁護士や専門家の手を借りて起草された場合に適用されるといわれています。

特に、保険契約等の約款で過度の免責が規定されている場合等に、当該免責条項を否定する解釈の道具として利用されることが多いといわれています(樋口範雄著:アメリカ契約法、弘文堂p165など)。

国連の動産売買ウィーン条約では明確な記載はありませんが、第8条第3項で、

In determining the intent of a party or the understanding a reasonable person would have had, due consideration is to be given to all relevant circumstances of the case including the negotiations, any practices which the parties have established between themselves, usages and any subsequent conduct of the parties.

(当事者の意図又は合理的な者が有したであろう理解を決定するに当たっては、関連するすべての状況(交渉、当事者間で確立した慣行、慣習及び当事者の事後の行為を含む。)に妥当な考慮を払う。)

との定めがあり、その中で考慮される可能性が全くないとは言えないように思います。

さて、このような「条項使用者不利の原則」「起草者不利の原則」を民法の解釈の一般論として規定することが妥当でしょうか?

民法には、信義誠実の原則というものがあります(民法1条2項)。
お互いに信義誠実に反するような権利の行使や義務の履行をしてはならない、という指導原理ですが、契約交渉という未だ明確に権利義務が定まっていない間においても、適用される原理だと思います。
(いわゆる契約締結上の過失~契約プロセスにおける信義誠実義務の問題として、既に多数の判例が認めるところです。)

そして、上記の「起草者不利の原則」は、この信義誠実の原則の一つの表れとも考えられます。
従って、解釈論としては、現在の規定でも十分対応できる可能性があります。

では、この起草者不利の原則を取り出して、契約の成立に関する指導原理として規定することにつき、どう考えたらよいのでしょうか?

企業間の契約では、大企業側、あるいは契約上有利な立場にある側(例えば買主側)が契約を起草すると決まっているわけではありません。大企業側がひな形を用意している場合も多いでしょうが、取引業者に契約案を出させる場合も決して少なくありません。

確かに、大企業側が起草しないのは、その企業にとってあまり馴染みのない領域に関する契約の場合、例えば、システムに疎い大企業がシステム会社にシステム開発を委託する場合、システム会社から出される契約に基づくことが多いとは思います。

とはいっても、必ずそうであるとは限りませんし、システム会社が常に顧客より弱い立場にあるとも限りません。

企業間取引において、一般論として、起草者不利の原則を働かせることは、必ずしも弱者の保護になるわけではありません。返って無用な憶測を呼び、契約の根本的使命である予測可能性を害する可能性もあるように思われます。

但し、企業間取引であっても明らかに優劣の差があるような、上記保険契約約款のような場合や、企業対消費者、企業対労働者間の契約の場合には、敢えてこれを規定する意味があるように思います。

ただ、後者の消費者や労働者の契約の場合は、当該解釈原理を適用すると宣言しても、あまり問題はないと思われますが、前者の企業間の場合、適用される場面をどのように限定していくかが問題になるでしょう。

立法技術的にどのようにすべきかは、専門家に任せたいと思いますが、可能な限り、具体的で解釈の幅の少ない定め方を期待したいと思います。

適用となる場合を「制限列挙」することでも構わないように思います。「つぎはぎ」になる可能性即ち頻繁な法改正が必要となる恐れはありますが。

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