民法改正~個別論点5「契約交渉段階の不当破棄」-1

「契約交渉段階の不当破棄」の点は、法制審議会民法改正部会「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」第23番目(契約交渉段階)の一つ目の論点として掲げられています。

私が学生であった頃(昭和54年~60年)は、いわゆる「契約締結上の過失」といわれていた問題ですが、最近は、契約プロセス理論なる用語の下、交渉段階の不当破棄、として論ぜらることが多いようです。

この論点は、あくまでも契約締結が完了する以前の問題ですから、理論的には、「契約責任」の問題ではなくて「不法行為責任」の問題として論ぜられています。

そもそも、近代私法の考え方でいけば、契約が締結されるまでは何らの権利も有さず義務も負わないというのが本来の姿ですね。

契約が締結されたら義務を負うが、締結されるまでは、テーブルを蹴って交渉を終わらせることができる、それが近代市民社会のモデルであったわけです。

当然、現行民法が制定された当初、学者が念頭に置いていた「現物売買(=大根売買)」などでは、交渉といってもせいぜい多少値切ったり、痛みがある部分を除外したり、という程度でしょう。

ですから、契約交渉段階の不当破棄といっても、ほとんど問題にはならなかったわけです。

しかし、現代の企業間の契約を考えた場合、お互いの当事者が会ってすぐ契約締結になることは稀でしょう。

むしろ、長期間の交渉を経て、最終的な契約文言にたどりつくことが、ますます多くなってきているように思われます。

というのも、従来、契約書の文言が抽象的・非具体的で、むしろ、契約締結後に交渉して色々決めていきましょう、というスタンスの契約が多かったようですが、現代では、英米流の契約交渉が日本企業間でなされることもしばしばであり、各企業におけるコンプライアンスやリスク管理の高度化、個人情報管理の要請などから、契約条項も長文化、具体化、詳細化が進んでいるように思われます。

(そのひとつの先駆的な例が、情報サービス産業協会が作成した「ソフトウェア開発委託取引契約」のモデルひな形だと思います。そこでは、システム開発委託に関して、昭和61年から数回にわたって改訂を繰り返しています。
(ネットでも最新版である平成20年版が参照できます。次を参照してください。

http://www.jisa.or.jp/legal/download/contract_model2008.pdf

 「JISA「ソフトウェア開発委託基本モデル契約」

このモデル契約では、A案、B案併記となっている部分もあるために長くなっているとも言えますが、条項数では、57条となっており、これまでの多くの取引基本契約などを圧倒的に凌駕するヴォリュームとなっています。

さて、話を元に戻しますが、このように、企業間契約では交渉が非常に長期に及ぶようになってきており、契約書条項が決まらないうちから、先行的に製造や開発を開始するような例も多数見受けられます。

そのような事情を背景として、従来は国際契約で問題になることが多かった標記「契約交渉段階の不当破棄」の問題が、国内でも考えられるようになってきており、昭和60年代以降、多くの最高裁判例を含めた判例が出されてきているわけです。


この問題につき、部会資料では、次のように問題提起されています。
<~A),B),C)等は、筆者挿入>

「第23 契約交渉段階
1 契約交渉の不当破棄
A) 当事者は契約を締結
するかどうかの自由を有し,いったん契約交渉を開始しても自由に破棄することができるのが原則であるが,交渉経緯によって契約交渉を不当に破棄したと評価される者が信義則上相手方に対する損害賠償義務を負う場合があることは従来から判例上も認められていることから,契約交渉の不当破棄に関する法理を条文上明記すべきであるとの考え方がある。

B) これに対しては,契約交渉の破棄が不当であるかどうかは個別の事案に応じて判断される事柄であり,一般的な規定を設けるのは困難であるとの指摘や,規定を設けると悪用されるおそれがあるとの指摘,特定の場面について信義則を具体化することによって信義則の一般規定としての性格が不明確になるとの指摘などもあることから,

C) 契約交渉の不当破棄に関する規定を設けるという上記の考え方の当否について,規定の具体的な内容を含めて,更に検討してはどうか。

D)これを明文化する場合の規定内容を検討するに当たっては,

E)損害賠償の要件に関しては契約交渉の破棄が原則として自由であることに留意した適切な要件の絞り込みの在り方が,

F)効果に関しては損害賠償の範囲や時効期間等がそれぞれ問題になることから,これらについて,契約交渉の不当破棄に基づく損害賠償責任の法的性質などにも留意しながら,更に検討してはどうか。」

この中でも触れられているように、多数の判例による判示がある中で、どうやって、妥当な要件を抽出できるか、ということがポイントでしょう。

では、この点をどう考えていけばよいのでしょうか?

(→申し訳ありません。長くなりましたので、明日に引き続かせてください。)


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